
AI電力を作る日本のエネルギー株 - 原発再稼働・電力会社・ガス9選
AIデータセンターが消費する電気は誰が作るのか。原発再稼働の電力会社(関西電力、九州電力など)、LNGガス(東京ガス、大阪ガス)、原発設備(日本製鋼所、IHI)まで、日本のエネルギー株9銘柄をPER・PBR・ROEで整理します。
AIデータセンター関連株の記事で、AIの本当のボトルネックは電力だという話をしました。あの記事が電気を送り、扱うインフラ(電線、電力機器、冷却)を扱ったのに対し、この記事はその前の段階、電気を作る側を見ます。データセンターが消費するあの膨大な電気は、結局は誰かが発電所で作らなければならないからです。
興味深いのは、電線株が1年で3〜7倍に急騰する間、当の電気を作る発電源の側は相対的にあまり上がらなかったことです。そのため「AI電力テーマの次の番」として発電源、とりわけ原発再稼働が注目されています。原子力は一度動かせば安定して大量の電気を供給でき、データセンターの電力源として理想的だと評価されています。
この記事では、日本のエネルギー株を電力会社、ガス、原発設備の3つに分けて9銘柄を整理します。
指標は2026年6月5日の終値ベースの参考値で、相場によって日々変わります。指標の定義は株式の投資指標の読み方の記事で整理しました。実際の判断の前には各証券会社や公式IRで最新値をご確認ください。
表A - バリュエーション
発電源グループの順に並べました。PERと配当は予想ベースです。
| 銘柄 | コード | グループ | 時価総額 | 予想PER | PBR | ROE | 予想配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 関西電力 | 9503 | 電力会社 | 2.61兆 | 8.6倍 | 0.75 | 11.7% | 3.33% |
| 九州電力 | 9508 | 電力会社 | 0.78兆 | 6.5倍 | 0.78 | 14.1% | 3.16% |
| 中部電力 | 9502 | 電力会社 | 2.12兆 | 11.9倍 | 0.67 | 7.7% | 2.80% |
| 四国電力 | 9507 | 電力会社 | 0.29兆 | 6.9倍 | 0.61 | 11.1% | 4.00% |
| 東京電力HD | 9501 | 電力会社 | 0.85兆 | 5.0倍 | 0.35 | −12.7% | 無配 |
| 東京ガス | 9531 | ガス | 2.07兆 | 16.6倍 | 1.20 | 13.2% | 1.91% |
| 大阪ガス | 9532 | ガス | 2.18兆 | 15.1倍 | 1.17 | 8.7% | 2.35% |
| 日本製鋼所 | 5631 | 原発設備 | 0.59兆 | 25.5倍 | 2.75 | 9.5% | 1.35% |
| IHI | 7013 | 原発設備 | 2.79兆 | 18.1倍 | 4.18 | 28.4% | 1.03% |
まず目につくのは、電力会社5社のPBRがすべて1倍未満だという点です。中部電力0.67倍、東京電力は0.35倍と、純資産の半分にも満たない価格で取引されています。AI電力需要と原発再稼働という追い風があるのにこれほど安いのには理由があり、後ほど取り上げます。
表B - 収益性・成長・財務
同じ9銘柄を収益性と成長、財務で見直します。増収率と経常増益率は前年度比です。
| 銘柄 | コード | 増収率 | 経常増益率 | 自己資本比率 | ベータ | 1年株価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 関西電力 | 9503 | −6.5% | −2.5% | 35.1% | 0.91 | +47.6% |
| 九州電力 | 9508 | −4.7% | +6.4% | 19.9% | 0.80 | +35.3% |
| 中部電力 | 9502 | −3.4% | +5.3% | 41.0% | 0.61 | +64.4% |
| 四国電力 | 9507 | −10.5% | −25.9% | 27.4% | 0.78 | +21.1% |
| 東京電力HD | 9501 | −7.1% | +64.0% | 21.8% | 1.11 | +41.7% |
| 東京ガス | 9531 | +7.5% | +70.5% | 44.1% | 0.54 | +28.2% |
| 大阪ガス | 9532 | −1.9% | +7.8% | 54.4% | 0.62 | +51.3% |
| 日本製鋼所 | 5631 | +10.6% | +10.9% | 49.4% | 1.60 | +7.6% |
| IHI | 7013 | +1.0% | +33.9% | 26.9% | 1.37 | +15.9% |
電力会社とガスはベータが0.5〜1.1と総じてディフェンシブです。景気より生活インフラに近いからです。一方で原発設備(日本製鋼所1.60、IHI1.37)はベータが高く、より大きく揺れます。
電力会社 - 原発再稼働と1倍未満のPBR
電力会社はAI電力テーマの最も直接的な発電源です。とりわけ原発を持つ会社が注目されます。原発を再稼働すれば燃料費が大きく減って利益が増え、データセンターに安定した電気を供給できるからです。
- 関西電力(9503)は日本で原発依存度が最も高い会社で、原発再稼働の代表株です。ROE 11.7%、予想配当3.33%と電力会社の中で収益性と配当が安定しています。PBR 0.75倍と依然として割安です。
- 九州電力(9508)はROE 14.1%と電力会社の中で最も高いです。九州には半導体工場やデータセンターが増えており、地域の電力需要増加の恩恵も合わせて期待できます。
- 中部電力(9502)は1年の株価が+64.4%とこのグループで最も上がりました。発電事業をJERAという合弁会社に切り出して効率を高め、ベータ0.61と変動性も低いです。
- 四国電力(9507)は伊方原発を持つ小さな電力会社です。予想配当が4.00%と5つの電力会社の中で最も高く、PBR 0.61倍、ROE 11.1%と配当と割安が両立する魅力があります。ただし前期の経常利益が−25.9%と不振で、原発の稼働と業績回復が続くかを見る必要があります。
- 東京電力HD(9501)は性格がまったく異なります。PBR 0.35倍と純資産の3分の1の価格ですが、ROEは−12.7%と赤字で配当もありません。福島事故の賠償と廃炉の負担が依然として重いからです。首都圏のデータセンター電力需要という期待は大きいものの、コンセンサスレーティングも2.0と9銘柄で唯一の弱気寄りです。期待とリスクがともに最も大きい、最も投機的な銘柄です。
ガス - LNG発電の燃料
ガス会社がAIと結びつく糸は一歩離れていますが、はっきりしています。日本の電力の約3分の1がLNG(液化天然ガス)火力発電で、AIデータセンターが電気をより多く使うほど、このLNG発電をより多く動かさなければならないからです。さらにLNG火力は、原発(常に一定で稼働)や再生可能エネルギー(天候によって変動)と違い、需要に合わせてつけたり消したりしやすく、ばらつくデータセンターの電力を埋める調整役を担います。
東京ガスと大阪ガスは、そのLNGを調達して供給するだけでなく、自らLNG火力発電所も運営しています。単なる都市ガス会社ではなく、発電事業者でもあるわけです。
- 東京ガス(9531)はROE 13.2%とガス2社の中で収益性が高いです。発電事業を育てており、電力需要の増加が直接の売上につながります。
- 大阪ガス(9532)は自己資本比率54.4%と財務が堅く、1年の株価が+51.3%と着実に上がりました。2つのガス会社とも、ベータが0.5台と最もディフェンシブな部類です。
原発設備 - 再稼働と新設の直接の恩恵
原発を再稼働したり新たに建てたりするには設備が必要です。ここで日本企業が世界的な競争力を持ちます。
- 日本製鋼所(5631)は原子炉圧力容器のような大型鍛造部品で世界的な強豪です。原発の再稼働と新設、そして次世代の小型原子炉(SMR)まで直接の恩恵が期待されます。コンセンサスレーティングが4.5と9銘柄で最も高く、市場の期待が最も大きい銘柄です。ただし予想PER 25.5倍と、その期待がすでに価格に織り込まれています。
- IHI(7013)は発電設備と航空エンジンを持つ重工業の会社です。ROE 28.4%と9銘柄で最も高いものの、PBR 4.18倍と最も高いです。直近3か月−32.5%、年初来高値から−45%と大きく調整しており、変動の大きい銘柄です。
電力会社が安い理由をどう見るか
この記事で最も目を引くのは電力会社の低いPBRです。原発再稼働とAI電力需要という追い風があるのに、なぜ純資産より安く取引されるのでしょうか。
理由は、電力会社が長く低収益体質だったからです。電気料金は規制を受けて自由に上げにくく、膨大な設備投資と燃料費の負担が常につきまといます。そのためROEが低く、市場はその低い収益性をPBRに反映してきました。PBRが低いことがそのまま割安なのではなく、低いROEに対する市場の合理的な評価かもしれないという点は、株式の投資指標の読み方の記事でも強調した部分です。
したがって核心はこうです。原発再稼働と料金の正常化が実際にROEを引き上げ、低いPBRが再評価されるのか。その変化が業績で確認されれば割安は機会になり、期待にとどまれば電力会社は安いまま残り得ます。同じ電力会社でも、原発比率が高い関西電力と赤字の東京電力では、その道は大きく異なります。
銘柄ごとの一言まとめ
- 関西電力(9503)原発依存度が最も高く、再稼働の代表株。ROE 11.7%、配当3.33%と安定しています。
- 九州電力(9508)ROE 14.1%と電力会社で最高。九州のデータセンター需要も合わせて期待できます。
- 中部電力(9502)1年+64%と最も上がり、ベータ0.61とディフェンシブです。
- 四国電力(9507)伊方原発を保有。予想配当4.00%と電力会社で最高ですが、前期の業績は不振でした。
- 東京電力HD(9501)PBR 0.35倍と最も安いが赤字、無配。期待とリスクが最も大きい投機的な銘柄です。
- 東京ガス(9531)ROE 13.2%とガス2社で高く、発電事業の拡大の恩恵があります。
- 大阪ガス(9532)財務が堅く、ベータ0.5台と最もディフェンシブです。
- 日本製鋼所(5631)原子炉部品の世界的強豪。コンセンサス4.5と期待は最高、そのぶんPERも高いです。
- IHI(7013)ROE 28.4%と最高ですがPBR 4.18倍と高く、直近で大きく調整しました。
おわりに
AIデータセンターが電気を大量に消費するほど、その電気を作る発電源の価値も見直されています。電線株が先に急騰したとすれば、発電源は「次の番」として挙がる段階です。ただし同じエネルギー株でも性格はさまざまです。原発再稼働に賭けるなら関西電力や日本製鋼所の側が、安定した配当とディフェンシブさを求めるならガス会社の側が合います。追い風は確かにありますが、電力会社の低いPBRが割安なのか低収益の結果なのかを見分けることが、このテーマを見るうえで最も大切な点です。
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。指標は2026年6月5日終値ベースの参考値であり、正確性・最新性を保証するものではありません。原発再稼働や政策は変動が大きく、株価は相場によって大きく変わり得るので、実際の判断の前には各証券会社や公式IRで最新値をご確認ください。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。